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猿とタイプライター

世界でいちばん役に立つ「小説の書き方」解説

8. 地図はあなたをどこへも運んでくれない

 あなたも小説を書こうとしている人間なら、プロットについての話題が気になって気になってしょうがないことだろう。プロットはほんとうに必要なのだろうか。必要だとして、どうやって組み立てるべきなのか。どんなプロットが良いプロットなのか。

 結論から先に言おう。プロットについて考えること自体が時間の無駄である。

 

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 そもそもプロットとはなにか?

 plotは計画とか航路図とかを意味する単語で、小説に関する文脈で出てきたら「話の筋」という意味になる。それじゃあらすじのことじゃないの? プロットとあらすじって同じものだったの? ……なんてことにも頭を悩ませなくてよろしい。プロットという言葉が意味するところは作家によってもちがうし編集によってもちがう。

 僕の担当編集は、僕がまだデビューしたてのひよっこの頃、執筆に取りかかる前に必ず「プロットをくれ」と言っていた。今も、執筆に取りかかる前には「プロットをくれ」と言うのだが、驚くなかれ、前者と後者では意味がちがうのだ。同じ人間が同じ相手に対して使っている「プロット」という言葉なのに、である。

 前者の「プロット」は、「小説一本を書き上げてからボツにしたら労力が無駄になるので、なるべく簡単に読めて内容を把握・チェックできるような短い文章」という意味だ。

 後者の「プロット」は、「ほんとうに書くのかどうか不安だからなんでもいいから作品に関係ありそうなことを書いてよこせ。どうせその通りに書かないのはわかっているけど」という意味である。

 同じ人間でさえちがう意味で使うのだ。作家の間ではもっと千差万別の使われ方をする。ある作家はプロットと称して原稿用紙80枚くらい書く。またある作家はプロットと称してせりふとト書きだけの脚本みたいなものを書く。またある作家は担当編集を安心させるためだけにプロットと称しててきとうな思いつきを書く(僕だ)。またある作家は本ブログで「物語の背骨」と呼んでいるものをプロットと呼ぶ。

 これだけばらばらな使われ方をしている言葉なのだ。小説の書き方なんていう総合的な話をする場で、語るべきではない。

 

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 では、もうテーマも背骨もクライマックスもあるし、いきなり書き始めていいのか? 答えはもちろん否だ。なにしろ最初になにを書くべきか、あなたはわからないはずだ。

 主人公や舞台の紹介から始めるんじゃないのかって?

 ふむ、それは多くの既存作品がそうだったからだろうか? それとも今まで読んできた小説の書き方講座にそう書いてあったからだろうか? だとしても、主人公や舞台の紹介から書き始めることが、どうして読者の心を動かすために必要なのか、あなたはきちんと理解できているだろうか? 他にもっと感動につながる書き出しがないとあなたには断言できるのだろうか?

 もう何度も同じ内容を読んできていいかげんうんざりしているかもしれないが、またも繰り返す。あなたの目的は読者を感動させることだ。読者を感動させるために役に立たない文字は一字たりとも書いてはいけない。どの文字が読者の感動につながるのか、考えて選んでいくのが小説執筆という作業の本質だということを片時たりとも忘れてはいけない。あなたが書くどの文字も、目的論と方法論の相対性で説明した目的論・方法論階層によって、読者の感動という最上層にちゃんとつながっていなくてはならないのだ。

 もうおわかりだろう。クライマックスの展開とか物語の骨とかテーマとかいったものは、目的論・方法論階層における最上層「読者の感動」の一段下を固めたものだ。「読者の感動」という大目的に対しての、中目的なわけだ。

 一文字書くたびに中目的や大目的に立ち戻って「この文字はこの大きな目的を達成するための方法として最適だろうか……?」などと考えていたら一生かかっても書ききれない。だから中目的のための小目的、小目的のための微小目的……と決めておいた方が楽になる。この小目的だの微小目的だのが、様々な作家がプロットと呼んでいるものの正体である。どこまで深く決めるかは個人差がある。判断力に個人差があるからだ。それは地図の縮尺のようなものだ。ある人は1/1500の地図にしっかりルートを表示してGPS機能もつけてやらないと目的地までたどり着けないかもしれない。ある人は地球儀だけを片手にどんな街の裏路地もすいすい抜けていけるかもしれない。

 これから実際に物語の構造についての話に移るが、なんにせよ忘れないでほしい。地図は魔法の絨毯ではない。あなたを目的地に運んでくれるわけではない。あなたは自分の目でまわりの光景をたしかめて、自分の足で歩き出さなくてはならない。